喧嘩《けんか》もしたり。帽子と花簪の中であった。が、さてこうなると、心は同一《おなじ》でも兵子帯《へこおび》と扱帯《しごき》ほど隔てが出来る。主税もその扱にすれば、お嬢さんも晴がましく、顔の色とおなじような、毛巾《ハンケチ》を便《たより》にして、姿と一緒にひらひらと動かすと、畳に陽炎《かげろう》が燃えるようなり。
「御無沙汰を致しまして済みません。奥様《おくさん》もお変りがございませんで、結構でございます。先生は相変らず……飲酒《めしあが》りますか。」
「誰《たれ》か、と同一《おんなじ》ように……やっぱり……」と莞爾《にっこり》。落着かない坐りようをしているから、火鉢の角へ、力を入れて手を掛けながら、床の掛物に目を反《そ》らす。
主税は額に手を当てて、
「いや、恐縮。ですが今日のは、こりゃ逆上《のぼ》せますんですよ。前刻《さっき》朝湯に参りました。」
「父様《とうさん》もね、やっぱり朝湯に酔うんですよ。不思議だわね。」
主税は胸を据えた体《てい》に、両膝にぴたりと手を置き、
「平に、奥様《おくさん》には御内分。貴女《あなた》また、早瀬が朝湯に酔っていたなぞと、お話をなすっては不可《
前へ
次へ
全428ページ中38ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング