花にも水を遣りたかったの。」
「綺麗ですな、まあ、お源、どうだ、綺麗じゃないか。」
「ほんとうにお綺麗でございますこと。」と、これは妙子に見惚《みと》れている。
「同じく頂戴が出来ますんで?」
「どうしようかしら。お茶を食《あが》るんなら可《いい》けれど、お酒を飲《のむ》んじゃ、可哀相だわ。」
「え、酒なんぞ。」
「厭な、おほほ、主税さん、飲んでるのね。」
「はは、はは、さ、まあ、二階へ。」
と遁出《にげだ》すような。後へするする衣《きぬ》の音。階子段《はしごだん》の下あたりで、主税が思出したように、
「成程、今日は日曜ですな。」
「どうせ、そうよ、(日曜)が遊びに来たのよ。」
十二
二階の六畳の書斎へ入ると、机の向うへ引附けるは失礼らしいと思ったそうで、火鉢を座中へ持って出て、床の間の前に坐り蒲団《ぶとん》。
「どうぞ、お敷きなさいまし。」
主税は更《あらたま》って、慇懃《いんぎん》に手を支《つ》いて、
「まあ、よくいらっしゃいました。」
「はい、」とばかり。長年内に居た書生の事、随分、我儘《わがまま》も言ったり、甘えたり、勉強の邪魔もしたり、悪口も言ったり、
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