ませんよ、どうせ、お手製なんですから。」
 少し途切れて、
「お内ですか。」
「はい、」
「主税さんは……あの旦那様は、」
 と言いかけて、急に気が着いたか、
「まあ、どうしたの、暗いのねえ。」
 成程、そこまでは水口の明《あかり》が取れたが、奥へ行く道は暗かった。
「も、仕様がないのでございますよ、ほんとうに、あら、どうしましょう。」
 とお源は飛上って、慌てて引窓を、くるり、かたり。颯《さっ》と明るく虹の幻、娘の肩から矢車草に。
 その時台所へ落着いて顔を出した、主人《あるじ》の主税と、妙子は面《おもて》を見合わせた。
「驚《おど》かして上げましょうと思ったんだけれども。」と、笑って串戯《じょうだん》を言いながら、瓶《かめ》なる花と対丈《ついたけ》に、そこに娘が跪居《ついい》るので、渠《かれ》は謹んで板に片手を支《つ》いたのである。
「驚かしちゃ、私|厭《いや》ですよ。」
「じゃ、なぜそんな水口からなんぞお入んなさいます。ちゃんと玄関へお出迎いをしているじゃありませんか。」
「それでもね、」
 と愛々しく打傾き、
「お惣菜なんか持込むのに、お玄関からじゃ大業ですもの。それに、あの、
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