ましたっけ、大勢の中でございますから、遠くに姿を見ましたばかりで、別に言《ことば》も交わさないで、私は急いで出て参りましたので。」
「成程、いや、お茶も差上げませんで失礼ですが、手間が取れちゃまたお首尾が悪いと不可《いけ》ません。直ぐに、これから、」
「どうぞそうなすって下さいまし、貴下、御苦労様でございますねえ。」
「御苦労どころじゃありません。さあ、お供いたしましょう。」
 ふと心着いたように、
「お待ちなさいよ、夫人《おくさん》。」

       四十一

 早瀬は今更ながら、道子がその白襟の品好く麗《うるわ》しい姿を視《なが》めて、
「宵暗《よいやみ》でも、貴女《あなた》のその態《なり》じゃ恐しく目に立って、どんな事でまたその蠣目の車夫なんぞが見着けまいものでもありません。ちょいと貴女|手巾《ハンケチ》を。」
 と慌《あわただ》しい折から手の触るも顧みず、奪うがごとく引取って、背後《うしろ》から夫人の肩を肩掛《ショオル》のように包むと、撫肩はいよいよ細って、身を萎《すく》めたがなお見|好《よ》げな。
 懐中《ふところ》からまた手拭《てぬぐい》を出して、夫人に渡して、
「姉《あ
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