ね》さん冠《かぶ》りと云うのになさい、田舎者がするように。」
「どうせ田舎者なんですもの。」
 と打傾いて、髷《まげ》にちょっと手を当てて、
「こうですか。」白地を被《かぶ》って俯向《うつむ》けば、黒髪こそは隠れたれ、包むに余る鬢《びん》の馥《か》の、雪に梅花を伏せたよう。
 主税は横から右瞻左瞻《とみこうみ》て、
「不可《いけな》い、不可い、なお目立つ。貴女、失礼ですが、裾を端折《はしょ》って、そう、不可《いか》んな。長襦袢《ながじゅばん》が突丈《ついたけ》じゃ、やっぱり清元の出語《でがたり》がありそうだ。」
 と口の裡《うち》に独言《つぶや》きつつ、
「お気味が悪くっても、胸へためて、ぐっと上げて、足袋との間を思い切って。ああ、おいたわしいな。」
「厭《いや》でございますね。」
「御免なさいよ。」
 と言うが疾《はや》いか、早瀬の手は空を切って、体を踞《しゃが》んだと思うと、
「あれ、」
 かっとなって、ふらふらと頭《つむり》重く倒れようとした――手を主税の肩に突いて、道子はわずかに支えたが、早瀬の掌《たなそこ》には逸早く壁の隅なる煤《すす》を掬《すく》って、これを夫人の脛《はぎ》
前へ 次へ
全428ページ中368ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング