有りもしない事でもありそうに疑《うたぐ》っているようなの。もしかしたら、貴下私の身体《からだ》はどうなると思って? ですから妙子さんさえ下されば、有形にも無形にも立派な言訳になるんだわ。ひょっとすると、母様の方でも、妙子さんの為にするのだ、と思っているのかも知れなくってよ。顔さえ見りゃ、(私がどうかして早瀬さんに承知させます。)と、母様が口を利かない先にそう言って置くから。よう、後生だから早瀬さん。」
 言い言い、縋《すが》るように言う。
「詰らん言《こと》を。先生のお嬢さんを言訳に使って可いもんですか。」
「そうすると、私もう、母さんの顔が見られなくなるかも知れませんよ。」
「僕だって活きて二度と、先生の顔が見られないように……」と思わず拳《こぶし》を握ったのを、我を引緊《ひきし》められたごとくに、夫人は思い取って、しみじみ、
「じゃ、私の、私の身体はどうなって?」
「訳は無い、島山から離縁されて、」
「そんな事が、出来るもんですか。」
「出来ないもんですか。当前《あたりまえ》だ、」
 と自若として言うと、呆れたように、また……莞爾《にっこり》、
「貴下はどうしてそうだろう。」

 
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