「ほほほほ、」
 と今度は夫人の方が笑い出したが。
「なにしろ、貴下は不実よ。」
「何が不実です。」
「どうかして下さいな。」
 ――更《あらたま》って――
「妙子さんを。」
「ですから色仕掛けか、と云うんです。」
「あんな恐い顔をして、(と莞爾《にっこり》して。)ほんとうはね、私……自ら欺《あざ》むいているんだわ。家のために、自分の名誉を犠牲《ぎせい》にして、貴下から妙子さんを、兄さんの嫁に貰おう、とそう思ってこちらへ往来《ゆきき》をしているの。
 でなくって、どうして島山の顔や、母様の顔が見ていられます。第一、乳母《ばあや》にだって面《おもて》を見られるようよ。それにね、なぜか、誰よりも目の見えない娘が一番恐いわ。母さん、と云って、あの、見えない目で見られると、悚然《ぞっと》してよ。私は元気でいるけれど、何だか、そのために生身を削られるようで瘠《や》せるのよ。可哀相だ、と思ったら、貴下、妙子さんを下さいな。それが何より私の安心になるんです。……それにね、他《ほか》の人は、でもないけれど、母様がね、それはね、実に注意深いんですから、何だか、そうねえ、春の歌留多《かるた》会時分から、
前へ 次へ
全428ページ中355ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング