。ゆっくりお話をする間も無いじゃありませんか。
過日《いつか》何と言いました。あの合歓の花が記念だから、夜中にあすこへ忍んで行く――虫の音や、蛙《かわず》の声を聞きながら用水越に立っていて、貴女があの黒塀の中から、こう、扱帯《しごき》か何ぞで、姿を見せて下すったら、どんなだろう。花がちらちらするか、闇《やみ》か、蛍か、月か、明星か。世の中がどんな時に、そんな夢が見られましょう――なんて串戯《じょうだん》云うから、洗濯をするに可いの、瓜が冷せて面白いのッて、島山にそう云って、とうとうあすこの、板塀を切抜いて水門を拵《こしら》えさせたんだわ。
頭痛がしてならないから、十畳の真中《まんなか》へ一人で寝て見たいの、なんのッて、都合をするのに、貴下は、素通りさえしないじゃありませんか。」
「演劇《しばい》のようだ。」
と低声《こごえ》で笑うと、
「理想実行よ。」と笑顔で言う。
「どうして渡るんです。」
「まさか橋をかける言種《いいぐさ》は、貴下、無いもの。」
「だから、渡られますまい。」
「合歓の樹の枝は低くってよ。掴《つかま》って、お渡んなさいなね。」
「河童《かっぱ》じゃあるまいし、」
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