「御覧なさい」は底本では「御覧さない」]、痩《や》せたでしょう。この頃じゃ、こちらに、どんな事でもあるように、島山(理学士)を見ると、もうね、身体《からだ》が萎《すく》むような事があるわ。土間へ駈下りて靴の紐を解いたり結んだりしてやってるじゃありませんか。
 跪《ひざまず》いて、夫の足に接吻《キッス》をする位なものよ。誰がさせるの、早瀬さん。――貴下の意地ひとつじゃありませんか。
 ちっとは察して、肯いてくれたって、満更罰は当るまいと、私思うんですがね。」
 机に凭《もた》れて、長くなって笑いながら聞いていた主税が、屹《きっ》と居直って、
「じゃ貴女は、御自分に面じて、お妙さんを嫁に欲《ほし》いと言うんですか。」
「まあ……そうよ。」
「そう、それでは色仕掛になすったんだね。」

       三十七

「怒ったの、貴下、怒っちゃ厭よ、私。貴下はほんとうにこの節じゃ、どうして、そんなに気が強くなったんだろうねえ。」
「貴女が水臭い事を言うからさ。」
「どっちが水臭いんだか分りはしない。私はまさか、夜《よる》内を出るわけには行《ゆ》かず、お稽古に来たって、大勢|入込《いれご》みなんだもの
前へ 次へ
全428ページ中353ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング