》がお供をして、ちょっと見舞に参るわけにはまいりませんか。」
 と片手に燐寸《マッチ》を持ったと思うと、片手が衝《つ》と伸びて猶予《ため》らわず夫人の膝から、古手紙を、ト引取って、
「一度お話した上は、たとい貴女が御不承知でも、もうこんなものは、」
 と※[#「火+發」、316−3]《ぱっ》と火を摺《す》ると、ひらひらと燃え上って、蒼くなって消えた。が、靡《なび》きかかる煙の中に、夫人の顔がちらちらと動いて、何となく、誘われて膝も揺ら揺ら。
 居坐《いずまい》を直して、更《あらた》まって、
「お連れ下さいまし、どうぞ。」
 がらがらと格子の開く音。それ、言わぬことか。早や座に見えた菅子の姿。眩《まばゆ》いばかりの装いで、坐りもやらず、
「まあ、姉さん!」


     私語《さゞめごと》

       三十五

「もう遅いわ、姉さん、早くいらっしゃらないでは、何をしているの、」
 と菅子は立ったままで急込《せきこ》んで云う。戸外《おもて》の暑さか、駈込んだせいか、赫《かっ》と逆上《のぼ》せた顔の色。
 胸打騒げる姉夫人、道子がかえって物静かに、
「先刻《さっき》から待っていたんですよ
前へ 次へ
全428ページ中346ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング