参っております時分でしょうね。」
「うんえ、」
 頬ばった飯に籠って、変な声。
「道寄をしたですよ。貴女これからおいでなさるなら、早瀬の許《とこ》へお出でなさい、あすこに居ましょうで。」
「しますと、あの方も御一所なんですか。」
「一所じゃないです。早瀬がああいう依怙地《いこじ》もんですで。半分馬鹿にしていて、孤児院の義捐《ぎえん》なんざ賛成せんです。今日は会へも出んと云うそうで。それを是非説破して引張出すんだと云いましたから、今頃は盛に長紅舌を弄《ろう》しておるでしょう、は、はは、」
 と調子高に笑って、厭《いや》な顔をして、
「行って見て下さらんか。貴女、」
「はい、」
 となぜか俯向《うつむ》いたが、姉夫人はそのまましとやかに別れの会釈。
「また逢違いになりませんように、それでは御飯を召食《めしあが》りかけた処を、失礼ですが、」
「いや、もう済んだです。」
 その日は珍らしく理学士が玄関まで送って出た。
 絹足袋の、静《しずか》な畳ざわりには、客の来たのを心着かなかった鞠子の婢《おさん》も、旦那様の踏みしだいて出る跫音《あしおと》に、ひょっこり台所《だいどこ》から顔を見せる。

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