いた英吉に倒れかかって、脚が搦《から》んで漾《ただよ》う処へ、チャブ台の鉢を取って、ばらり天窓《あたま》から豆を浴びせた。惣助|呵々《からから》と笑って、大音に、
「鬼は外、鬼は外――」


     道子

       二十九

 夫の所好《このみ》で白粉《おしろい》は濃いが、色は淡い。淡しとて、容色《きりょう》の劣る意味ではない。秋の花は春のと違って、艶《えん》を競い、美を誇る心が無いから、日向《ひなた》より蔭に、昼より夜、日よりも月に風情があって、あわれが深く、趣が浅いのである。
 河野病院長医学士の内室、河野家の総領娘、道子の俤《おもかげ》はそれであった。
 どの姉妹《きょうだい》も活々して、派手に花やかで、日の光に輝いている中に、独り慎ましやかで、しとやかで、露を待ち、月にあこがるる、芙蓉《ふよう》は丈のびても物寂しく、さした紅も、偏《ひと》えに身躾《みだしなみ》らしく、装った衣《きぬ》も、鈴虫の宿らしい。
 いつも引籠勝《ひっこもりがち》で、色も香も夫ばかりが慰むのであったが、今日は寺町の若竹座で、某《なにがし》孤児院に寄附の演劇があって、それに附属して、市の貴婦人連が、
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