に縁へ遁《に》げた洋服は――河野英吉。続いて駈出そうとする照陽女学校の教頭、宮畑閑耕《みやばたかんこう》の胸《むな》づくし、釦《ぼたん》が引《ひっ》ちぎれて辷《すべ》った手で、背後《うしろ》から抱込んだ。
「そ、そこに泣いていらっしゃるなア大先生の嬢様でがしょう。飯田町の路地で拝んで、一度だが忘れねえ。此奴等《こいつら》がこの地獄宿へ引張込んだのを見懸けたから、ちびりちびり遣りながら、痴《こけ》の色ばなしを冷かしといて、ゆっくり撲《なぐ》ろうと思ったが、勿体なくッて我慢ならねえ。酒井さんのお嬢さん、私《わっし》がこうやっている処を、ここへ来て、こン唐人|打挫《ぶっくじ》いておやんなせえ、お打《ぶ》ちなせえ、お打ちなせえ。
 どうしてまたこんな処へ。……何、八丁堀へおいでなすって。ええ、お帰んなさる電車で逢ったら、一人で遠歩きが怪しいから、教師の役目で検《しら》べるッて、……沙汰の限りだ。
 むむ、此奴等、活かして置くんじゃねえけれど、娑婆の違った獣《けだもの》だ、盆に来て礼を云え。」
 と突飛ばすと、閑耕の匐《のめ》った身体《からだ》が、縁側で、はあはあ夢中になって体操のような手つきで
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