いて来ねえ、焼いて来ねえ。」
 女中は、気違かと危《あやぶ》んで、怪訝《けげん》な顔をしたが、試みに、
「そして綱次さんを掛けるんですか。」
「うんや、今度はこっちがおあいにくだ。ちっとも馴染《なじみ》でも情婦《いろ》でもねえ。口説きように因っちゃ出来ねえ事もあるめえと思うのよ。もっとも惚れてるにゃ惚れてるんだ。待ちねえ、隣の室《へや》で口説いてら、しかも二人がかりだ。」
「ちょっと、」
 と留めて姉さんは興さめ顔。
「こっちは一人だ、今に来たら、お前《めえ》も手伝って口説いてくんねえ。何だ、何だ、(と聞く耳立てて)純潔な愛だ。けつのあいたあ何だい。」
 と、襖《ふすま》にどしんと顔《つら》を当てて、
「蟻の戸渡《とわたり》でいやあがらあ、べらぼうめ。」
「やかましい!」
 隣の室《へや》から堪りかねたか叱咤《しった》した。
「地声だ!」
「あれ、」
 と女中が留めようとする手も届かず、ばたりめ[#「め」に傍点]組が襖を開けると、いつの間に用意をしたか、取って捨てた手拭の中から腹掛を出た出刃庖丁。
「この毛唐人めら、汝《うぬ》、どうするか見やあがれ。」
 あッと云って、真前《まっさき》
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