を閉じたが、枕許の香《こう》は、包を開けても見ず、手拭の移香でもない。活々した、何の花か、その薫の影はないが、透通って、きらきら、露を揺《ゆす》って、幽《かすか》な波を描いて恋を囁《ささや》くかと思われる一種微妙な匂が有って、掻巻の袖を辿《たど》って来て、和《やわら》かに面《おもて》を撫でる。
 それを掻払《かいはら》うごとく、目の上を両手で無慚《むざん》に引擦《ひっこす》ると、ものの香はぱっと枕に遁《に》げて、縁側の障子の隅へ、音も無く潜んだらしかったが、また……有りもしない風を伝って、引返《ひっかえ》して、今度は軽《かろ》く胸に乗る。
 寝返りを打てば、袖の煽《あおり》にふっと払われて、やがて次の間と隔ての、襖の際に籠った気勢《けはい》、原《もと》の花片《はなびら》に香が戻って、匂は一処に集ったか、薫が一汐《ひとしお》高くなった。
 快い、さりながら、強い刺戟を感じて、早瀬が寝られぬ目を開けると、先刻《さっき》(お休みなさい。)を云った時、菅子がそこへ長襦袢の模様を残した、襖の中途の、人の丈の肩あたりに、幻の花環は、色が薄らいで、花も白澄んだけれども、まだ歴々《ありあり》と瞳に映る
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