めて肩を引いた。が、幻の花環一つ、黒髪のありし辺《あたり》、宙に残って、消えずに俤《おもかげ》に立つ。
主税は仰向けに倒れたが、枕はしないで、両手を廻して、しっかと後脳を抱いた。目はハッキリと※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みひら》いて、失せやらぬその幻を視めていた。時過ぎる、時過ぎる、その時の過ぎる間に、乳母が長火鉢の処の、洋燈《ランプ》を消したのが知れて、しっこは、しっこは、と小児《こども》に云うのが聞えたが、やがて静まって、時過ぎた。
早瀬は起上って、棚の残燈《ありあけ》を取って、縁へ出た。次の書斎を抜けるとまた北向きの縁で、その突当りに、便所《かわや》があるのだが、夫人が寝たから、大廻りに玄関へ出て、鞠子の婢《おさん》の寝た裙《すそ》を通って、板戸を開けて、台所《だいどこ》の片隅の扉《ひらき》から出て、小用を達《た》して、手を洗って、手拭《てぬぐい》を持つと、夫人が湯で使ったのを掛けたらしい、冷く手に触って、ほんのり白粉《おしろい》の香《におい》がする。
十九
寝室《ねま》へ戻って、何か思切ったような意気込で、早瀬は勢《いきおい》よく枕して目
前へ
次へ
全428ページ中287ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング