点]の字、滅多なことは云うもんじゃありません、他《ほか》の事と違うよ、お前、」
「あれ、串戯《じょうだん》じゃねえ。これが嘘なら、私《わっし》の鯛《てえ》[#ルビの「てえ」は底本では「てい」]は場違《ばちげえ》だ。ええ、旦那、河野の本家は静岡で、医者だろうね。そら、御覧《ごろう》じろ、河野ッてえから気がつかなかった。門に大《おおき》な榎《えのき》があって、榎|邸《やしき》と云や、お前《めえ》、興津《おきつ》江尻まで聞えたもんだね。
 今見りゃ、ここを出た客てえのは、榎邸の奥様《おくさん》で、その馬丁の情婦《いろおんな》だ。
 だから私ア、冷かしに行ってやろうと思ったんだ。嘘にもほんとうにも、児《こ》があらあ、児が。ああ、」
 また一口がぶりと遣《や》って、はりはり[#「はりはり」に傍点]を噛《か》んだ歯をすすって、
「ねえ、大勢|小児《こども》がありましょう。」
「南町の学士先生もその一|人《にん》、何でも兄弟は大勢ある。八九人かも知れないよ、いや、ほんとうなら驚いたな。」
「おお、待ちねえ、その先生は幾歳《いくつ》だね。」
「六か、七だ。」
「二十《はたち》とだね、するとその上か、そ
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