くことはないんだわ。め[#「め」に傍点]組の云う兇状持なら、あの令夫人《おくさん》がああ見えて、内々大福餅がお好きだぐらいなもんですよ。お彼岸にお萩餅《はぎ》を拵《こしら》えたって、自分の女房《かみさん》を敵《かたき》のように云う人だもの。ねえ、そうだろう。め[#「め」に傍点]の字、何か甘いものが好《すき》なんだろう。」
「いずれ、何か隠喰《かくしぐい》さ、盗人上戸《どろぼうじょうご》なら味方同士だ。」
「へへ、その通り、隠喰いにゃ隠喰いだが、喰ったものがね、」
「何だ、」
「馬でさ。」
「馬だと……」
「旅|俳優《やくしゃ》かい。」
「いんや、馬丁《べっとう》……貞造って……馬丁でね。私《わっし》が静岡に落ちてた時分の飲友達、旦那が戦争に行った留守に、ちょろりと嘗《な》めたが、病着《やみつき》で、※[#「口+愛」、第3水準1−15−23]《おくび》の出るほど食ったんだ。」
主税は思わず乗出して、酒もあったが元気よく、
「ほんとうか、め[#「め」に傍点]組、ほんとうかい。」
と事を好んだ聞きようをする。
「嘘よ、貴郎、あの方たちが、そんなことがあって可いもんですか、め[#「め」に傍
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