ッて云ったんだ。彼奴《あいつ》、兇状持だ。」
「ええ―」
 何としたか、主税、茶碗酒をふらりと持った手が、キチンと極《きま》る。
「兇状持え?」とお蔦も袖を抱いたのである。
 め[#「め」に傍点]組は、どこか当なしに睨《にら》むように目を据えて、
「それを、私《わっし》ア、私アそれをね、ウイ、ちゃんと知ってるんだ。知ってるもんだから、だもんだから。……」

       九

「ウイ、だから私《わっし》が出入っちゃ、どんな事で暴露《ばれ》ようも知れねえという肚《はら》だ。こっちあ台所《でえどこ》までだから、ちっとも気がつかなかったが、先方《さき》じゃ奥から見懸けたもんだね。一昨日《おととい》頃静岡から出て来たって、今も蔦ちゃんの話だっけ。
 状《ざま》あ見やがれ、もっと先から来ていたんだ。家風に合わねえも、近所の外聞もあるもんか、笑《わら》かしゃあがら。」
 と大きに気勢《きお》う。
「何だ、何だ、兇状とは。」
「あの、河野さんの母様《おっかさん》がかい。」
 とお蔦も真顔で訝《いぶか》った。
「あれでなくって、兇状持は、誰なもんかね、」
「ほほほ、貴郎《あなた》、真面目《まじめ》で聞
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