れは、いかにもあんまりです。内じゃがえん[#「がえん」に傍点]に知己《ちかづき》があるようで、真《まこと》に近所へ極《きまり》が悪い。それに、聞けば芸者屋待合なんぞへ、主に出入《ではい》りをするんだそうだから、娘たちのためにもならず、第一家庭の乱れです。また風説《うわさ》によると、あの、魚屋の出入《でいり》をする家《うち》は、どこでも工面が悪いって事《こっ》たから、かたがた折角、お世話を願ったそうだけれど、宜しいように、貴下《あなた》から……と先ずざっとこうよ。」
め[#「め」に傍点]組より、お蔦が呆れた顔をして、
「わざわざその断りに来なすったの。」
「そうばかりじゃなかったが、まあ、それも一ツはあった。」
「仰山だわねえ。」
「ちと仰山なようだけれど、お邸つき合いのお勝手口へ、この男が飛込んだんじゃ、小火《ぼや》ぐらいには吃驚《びっくり》したろう。馴れない内は時々火事かと思うような声で怒鳴り込むからな。こりゃ世話をしたのが無理だった。め[#「め」に傍点]組怒っちゃ不可《いけな》い。」
「分った……」
と唐突《だしぬけ》に膝を叩いて、
「旦那、てっきりそうだ、だから、私ア違えねえ
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