早瀬さん、」と、つい台所《だいどこ》に、派手やかな夫人の声で、
「貴下、上ったら、これにお着換えなさいよ。ここに置いときますから、」
「憚《はばか》り、」
と我に返って、上って見ると、薄べりを敷いた上に、浴衣がある。琉球|紬《つむぎ》の書生羽織が添えてあったが、それには及ばぬから浴衣だけ取って手を通すと、桁短《ゆきみじか》に腕が出て着心の変な事は、引上げても、引上げても、裾が摺《ず》るのを、引縮めて部屋へ戻ると……道理こそ婦物《おんなもの》。中形模様の媚《なまめ》かしいのに、藍《あい》の香が芬《ぷん》とする。突立って見ていると、夫人は中腰に膝を支《つ》いて、鉄瓶を掛けながら、
「似合ったでしょう、過日《いつか》谷屋が持って来て、貴下が見立てて下すったのを、直ぐ仕立てさしたのよ。島山のはまだ縫えないし、あるのは古いから、我慢して寝衣《ねまき》に着て頂戴。」
「むざむざ新らしいのを。」
と主税は袖を引張る。
「いいえ、私、今着て見たの、お初ではありません。御遠慮なく、でも、お気味が悪くはなくって。ちょいと着たから、」
「気味が悪い、」
「…………」
「もんですか。勿体至極もござらん。」
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