です。汽車の中でお目にかかった事から、都合があってこちらで塾をお開きなさるに就いて、ちっとも土地の様子を御存じじゃない、と云うから、私がお世話をしてなんて、そこはね、可いように手紙を出したの、その返事、」
と掌《てのひら》に巻き据えた手紙の上を、軽《かろ》く一つとんと拍《う》って、
「母様《かあさん》が可い、と云ったら、天下晴れたものなんだわ。緩《ゆっく》り召食《めしあが》れ。そして、是非今夜は泊るんですよ。そのつもりで風呂も沸《わか》してありますから、お入んなさい。寝しなにしますか、それとも颯《さっ》と流してから喫《あが》りますか。どちらでも、もう沸いてるわ。そして、泊るんですよ。可《よ》くって、」
念を入れて、やがて諾《うん》と云わせて、
「ああ、昨日《きのう》も一昨日《おととい》も、合歓の花の下へ来ては、晩方|寂《さみ》しそうに帰ったわねえ。」
十六
さて湯へ入る時、はじめて理学士の書斎を通った。が、机の上は乱雑で、そこに据えた座蒲団も無かった、早瀬に敷かせているのがそれらしい。
机には、広げたままの新聞も幅をすれば、小児《こども》の玩弄物《おもちゃ》も
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