と地《つち》に擲《なげう》つや否や、裳《もすそ》を蹴《けっ》て、前途《むこう》へつかつか。
 その時義経少しも騒がず、落ちた菫《すみれ》色の絹に風が戦《そよ》いで、鳩の羽《は》はっと薫るのを、悠々と拾い取って、ぐっと袂《たもと》に突込んだ、手をそのまま、袖引合わせ、腕組みした時、色が変って、人知れず俯向《うつむ》いたが、直ぐに大跨《おおまた》に夫人の後について、社《やしろ》の廻廊を曲った所で追着《おッつ》いた。
「夫人《おくさん》。」
「…………」
「貴女腹をお立てなすったんですか、困りましたな。知らぬ他国へ参りまして、今貴女に見棄てられては、東西も分りませんで、途方に暮れます。どうぞ、御機嫌をお直し下さい、夫人《おくさん》、」
「…………」
「英吉君の御妹御、菅子さん、」
「…………」
「島山夫人……河野令嬢……不可《いけな》い、不可い。」
 と口の裡《うち》で云って、歩行《ある》き歩行き、
「ほんとうに機嫌を直して、貴女、御世話下さい、なまじっか、貴女にお便り申したために、今更|独《ひとり》じゃ心細くってどうすることも出来ません。もう決して貴女の前で、米の直《ね》は申しますまい。そ
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