》になって、軽《かろ》くその洋傘《ひがさ》を支《つ》いて、
「よく気がついてねえ。(小さな声で、)――大儀、」
「はッ、主税|御供《おんとも》仕《つかまつ》りまする上からは、御道中いささかたりとも御懸念はござりませぬ。」
「静岡は暢気《のんき》でしょう、ほほほほほ。」
「三等米なら六升台で、暮しも楽な処ですって、婆さんが言いましたっけ。」
「あらまた、厭ねえ、貴下《あなた》は。後生ですからその(お米は幾干だい、)と云うのだけは堪忍《かに》して頂戴な。もう私は極りが悪くって、同行は恐れるわ。」
「ええ、そうおっしゃれば、貴女もどうぞその手巾で、こう、お招きになるのだけは止して下さい。余りと云えば紋切形だ。」
「どうせね、柳橋のようなわけには……」
「いいえ、今も、子守女《もりっこ》めらが、貴女が手巾をお掉《ふ》りなさるのを見て、……はははは、」
「何ですって、」
「はははははは。」
 と事も無げに笑いながら、
「(男と女と豆煎、一盆五厘だよ。)ッて、飛んでもない、わッと囃《はや》して遁《に》げましたぜ。」
 ツンと横を向く、脊が屹《きっ》と高くなった。引《ひっ》かなぐって、その手巾をはた
前へ 次へ
全428ページ中266ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング