て、ト背向《うしろむ》きに頸《うなじ》を捻《ね》じて、衣紋《えもん》つきを映した時、早瀬が縁のその棚から、ブラッシを取って、ごしごし痒《かゆ》そうに天窓《あたま》を引掻《ひっか》いていたのを見ると、
「そんな邪険な撫着《なでつ》けようがあるもんですか、私が分けて上げますからお待ちなさい。」
 と云うのを、聞かない振でさっさと引込《ひっこ》もうとしたので、
「あれ、お待ちなさい」と、下〆《したじめ》をしたばかりで、衝《つ》と寄って、ブラッシを引奪《ひったく》ると、窓掛をさらさらと引いて、端近で、綺麗に分けてやって、前へ廻って覗《のぞ》き込むように瞳をためて顔を見た。
 胸の血汐《ちしお》の通うのが、波打って、風に戦《そよ》いで見ゆるばかり、撓《たわ》まぬ膚《はだえ》の未開紅、この意気なれば二十六でも、紅《くれない》の色は褪《あ》せぬ。
 境内の桜の樹蔭《こかげ》に、静々、夫人の裳《もすそ》が留まると、早瀬が傍《かたわら》から向うを見て、
「茶店があります、一休みして参りましょう。」
「あすこへですか。」
「お誂《あつら》え通り、皺《しわ》くちゃな赤毛布《あかげっと》が敷いてあって、水々し
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