美濃安八《みのあはち》の男が、夫人が上京したあと直ぐに、故郷の親が病気というので帰っていた――これが居ると、たとい日中《ひなか》は学校へ出ても、別に仔細《しさい》は無かったろうに。
 さて、夫人は、谷屋の手代というのを、隣室《となり》のその十畳へ通したらしい、何か話声がしている内、
「早瀬さん――」
 主税は、夫人が此室《ここ》を出て、大廻りに行った通りに、声も大廻りに遠い処に聞き取って、静にその跡を辿《たど》りつつ返事が遅いと、
「早瀬さん、」
 と近くまた呼ぶ。今しがた、(かくまって有る人だ)と串戯《じょうだん》を云ったものを。
「室数《まかず》は幾つばかりあれば可《よ》くって?」
「何です、何です。」
 余り唐突《だしぬけ》で解し兼ねる。
「貴下《あなた》のお借りなさろうというお家《うち》よ。ちょいと、」
「ええ、そうですね。」
「おほほほ、話しが遠いわ。こっちへいらっしゃいよ。おほほほ、縁側から、縁側から。」
 夫人がした通りに、茶棚の傍《わき》の襖口へ行きかけた主税は、(菅女部屋)の中を、トぐるりと廻って、苦笑《にがわらい》をしながら縁へ出ると、これは! 三足と隔てない次の座
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