したら、名高い、ギョウテの(ファウスト)だとか、シルレルの(ウィルヘルム、テル)………でしたっけかね、それなんぞ、何年ぐらいで読めるようになるんでしょう。」
「直《じ》き読めます、」
と読本を受取って、片手で大掴《おおづか》みに引開けながら、
「僕ぐらいにはという、但書が入りますけれど。」
「だって……」
「いいえ、出来ます。」
「あら、ほんとに……」
「もっとも月謝次第ですな。」
「ああだもの、」
と衝《つ》と身を退《の》いて、叱るがごとく、
「なぜそうだろう。ちゃんと御馳走は存じておりますよ。」
茶棚の傍《わき》の襖《ふすま》を開けて、つんつるてんな着物を着た、二百八十間の橋向う、鞠子辺《まりこあたり》の産らしい、十六七の婢《おさん》どんが、
「ふァい、奥様。」と訛《なま》って云う。
聞いただけで、怜悧《りこう》な菅子は、もうその用を悟ったらしい。
「誰か来たの?」
「ひゃあ、」
「あら、厭《いや》な。ちょいと、当分は留守とおいいと云ったじゃないの?」
「アニ、はい、で、ござりますけんど、お客様で、ござんしねえで、あれさ、もの、呉服町の手代|衆《しゅ》でござりますだ。」
「
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