から出向いたとある。
「河野の父さんの方も、内々小児をだしに使って、東京へ遊びに行った事を知っているんですから、言句《もんく》は言わないまでも、苦い顔をして、髯《ひげ》の中から一睨《ひとにら》み睨むに違いはないんですもの、難有《ありがた》くないわ。母様《かあさん》は自分の方へ、娘が慕って行ったんですから御機嫌が可いでしょう、もうちっと経《た》つと帰って来ます。それまでは、私、実家《さと》へは顔を出さないつもりで、当分風邪をひいた分よ。」
と火鉢の縁に肱《ひじ》をついて、男の顔を視《なが》めながら、魂の抜け出したような仇気《あどけ》ないことを云う。
「そりゃ、悪いでしょう。」
と主税がかえって心配らしく、
「彼方《むこう》から、誰方《どなた》かお来《いで》なさりゃしませんか。貴女がお帰りだ、と知れましたら。」
「来るもんですか。義兄《にいさん》(医学士――姉婿を云う)は忙しいし、またちっとでも姉さんを出さないのよ。大でれでれなんですから。父さんはね、それにね、頃日《このごろ》は、家族主義の事に就いて、ちっと纏まった著述をするんだって、母屋に閉籠《とじこも》って、時々は、何よ、一日蔵の
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