物があったでしょう。県庁よ。お城の中だわ。ああ、そう、早瀬さん、沢山《たんと》喫《あが》って頂戴、お煙草。露西亜《ロシヤ》巻だって、貰ったんだけれど、島山(夫を云う)はちっとも喫《の》みませんから……」

       八

 それから名物だ、と云って扇屋の饅頭を出して、茶を焙《ほう》じる手つきはなよやかだったが、鉄瓶のはまだ沸《たぎ》らぬ、と銅壺から湯を掬《く》む柄杓《ひしゃく》の柄が、へし折れて、短くなっていたのみか、二度ばかり土瓶にうつして、もう一杯、どぶりと突込む。他愛《たわい》なく、抜けて柄になってしまったので、
「まあ、」と飛んだ顔をして、斜めに取って見透《みすか》した風情は、この夫人《ひと》の艶《えん》なるだけ、中指《なかざし》の鼈甲《べっこう》の斑《ふ》を、日影に透かした趣だったが、
「仕様がないわね。」と笑って、その柄を投《ほう》り出した様子は、世帯《しょたい》の事には余り心を用いない、学生生活の俤《おもかげ》が残った。
 主税が、小児《こども》衆は、と尋ねると、二人とも乳母《ばあや》が連れて、土産ものなんぞ持って、東京から帰った報知《しらせ》旁々《かたがた》、朝早く
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