すな。」
ここで、つい通りな、しかも適切なことを云って、部屋へ入ると、長火鉢の向うに坐った、飾を挿さぬ、S巻の濡色が滴るばかり。お納戸の絹セルに、ざっくり、山繭縮緬《やままゆちりめん》の縞《しま》の羽織を引掛けて、帯の弛《ゆる》い、無造作な居住居《いずまい》は、直ぐに立膝にもなり兼ねないよう。横に飾った箪笥《たんす》の前なる、鏡台の鏡の裏《うち》へ、その玉の頸《うなじ》に、後毛《おくれげ》のはらはらとあるのが通《かよ》って、新《あらた》に薄化粧した美しさが背中まで透通る。白粉の香は座蒲団にも籠《こも》ったか、主税が坐ると馥郁《ふくいく》たり。
「こんな処へお通し申すんですから、まあ、堅くるしい御挨拶はお止しなさいよ。ちょいと昨夜《ゆうべ》は旅籠屋で、一人で寂しかったでしょう。」
と火箸を圧《おさ》えたそうな白い手が、銅壺の湯気を除《よ》けて、ちらちらして、
「昨夜《ゆうべ》にも、お迎いに上げましょうと思ったけれど、一度、寂しい思をさして置かないと、他国へ来て、友達の難有《ありがた》さが分らないんですもの。これからも粗末にして不実をすると不可《いけ》ないから………」
と莞爾《にっこ
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