ッとここから、ほほほ、市川菅女、部屋の方へ。」
と直ぐに縁づたいで、はらはらと、素足で捌《さば》く裳《もすそ》の音。
七
市川菅女……と耳にはしたが、玄関の片隅切って、縁へ駈込むほどの慌《あわただ》しさ、主税は足早に続く咄嗟《とっさ》で、何の意味か分らなかったが、その縁の中ほどで、はじめて昨日《きのう》汽車の中で、夫人を女|俳優《やくしゃ》だと、外人に揶揄《やゆ》一番した、ああ、祟《たたり》だ、と気が付いた。
気が付いて、莞爾《かんじ》とした時、渠《かれ》の眼《まなこ》は口許《くちもと》に似ず鋭かった。
ちょうどその横が十畳で、客室《きゃくま》らしい造《つくり》だけれども、夫人はもうそこを縁づたいに通越して、次の(菅女部屋)から、
「ずッといらっしゃいよ。」と声を懸ける。
主税が猶予《ためら》うと、
「あら、座敷を覗《のぞ》いちゃ不可《いけ》ません、まだ散らかっているんですから、」
と笑う。これは、と思うと、縁の突当り正面の大姿見に、渠の全身、飛白《かすり》の紺も鮮麗《あざやか》に、部屋へ入っている夫人が、どこから見透《みすか》したろうと驚いたその目の色ま
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