ま》って、
「失礼ついでに、またお詫をします気で伺いますが、貴女もし静岡で、河野《こうの》さん、と云うのを御存じではございませんか。」
「河野……あの、」
深く頷《うなず》き、
「はい、」
「あら、河野は私《わたくし》どもですわ。」
と無意識に小児《こども》の手を取って、卓子《テイブル》から伸上るようにして、胸を起こした、帯の模様の琴の糸、揺《ゆる》ぐがごとく気を籠めて、
「そして、貴下は。」
「英吉君には御懇親に預ります、早瀬|主税《ちから》と云うものです。」
と青年は衝《つ》と椅子を離れて立ったのである。
「まあ、早瀬さん、道理こそ。貴下は、お人が悪いわよ。」と、何も知った目に莞爾《にっこり》する。
主税は驚いた顔で、
「ええ、人が悪うございますって? その女俳優《おんなやくしゃ》、と言いました事なんですかい。」
「いいえ、家《うち》が気に入らない、と仰有《おっしゃ》って、酒井さんのお嬢さんを、貴下、英吉に許しちゃ下さらないんですもの、ほほほ。」
「…………」
「兄はもう失望して、蒼《あお》くなっておりますよ。早瀬さん、初めまして、」
とこなたも立って、手巾を持ったまま、
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