》が、ふっくりと乳房を包んだ胸を圧《おさ》えて、時計の金鎖を留めている。羽織は薄い小豆色の縮緬《ちりめん》に……ちょいと分りかねたが……五ツ紋、小刀持つ手の動くに連れて、指環《ゆびわ》の玉の、幾つか連ってキラキラ人の眼《まなこ》を射るのは、水晶の珠数を爪繰《つまぐ》るに似て、非ず、浮世は今を盛《さかり》の色。艶麗《あでやか》な女俳優《おんなやくしゃ》が、子役を連れているような。年齢《とし》は、されば、その児《こ》の母親とすれば、少くとも四五であるが、姉とすれば、九でも二十《はたち》でも差支えはない。
婦人は、しきりに、その独語に巧妙な同胞の、鼻筋の通った、細表の、色の浅黒い、眉のやや迫った男の、少々《わかわか》しい口許《くちもと》と、心の透通るような眼光《まなざし》を見て、ともすれば我を忘れるばかりになるので、小児《こども》は手が空いたが、もう腹は出来たり、退屈らしく皿の中へ、指でくるくると環《わ》を描《か》いた。それも、詰らなそうに、円い目で、貴婦人の顔を視《なが》めて、同一《おなじ》ようにそなたを向いたが、一向珍らしくない日本の兄《あにい》より、これは外国の小父さんの方が面白いか
前へ
次へ
全428ページ中222ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング