さ。」
「女房《かみさん》が寄せつけやしまい、第一|吃驚《びっくり》するだろう、己なんぞが飛込んじゃ、山の手から猪《いのしし》ぐらいに。所かわれば品かわるだ、なあ、め[#「め」に傍点]組。」
と下流《したながし》へかけて板の間へ、主税は腰を掛け込んで、
「ところで、ちと申かねるが、今の河野の一件だ。」
「何です、旦、」
と吃驚するほど真顔。
「お前《めえ》さんや、奥様《おくさん》で、私《わっし》に言い憎いって事はありゃしねえ、また私が承って困るって事もねえじゃねえか。
嚊々《かかあ》を貸せとも言いなさりゃしめえ、早い話が。何また御使い道がありゃ御用立て申します。」
「打附《ぶッつ》けた話がこうだ。南町はちと君には遠廻りの処を、是非廻って貰いたいと云うもんだから、家内《うち》で口を利いて行《ゆ》くようになったんだから、ここがちと言い憎いのだが、今云った、それ、膚合《はだあい》の合わない処だ。
今来た、あの母親《おふくろ》も、何のかのって云っているからな、もう彼家《あすこ》へは行かない方が可いぜ。心持を悪くしてくれちゃ困るよ。また何だ、その内に一杯|奢《おご》るから。」
とまめや
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