え》になる。
「不可《いけ》ません、もう飲んでるんだもの。この上|煽《あお》らして御覧なさい。また過日《いつか》のように、ちょいと盤台を預っとくんねえ、か何かで、」
お蔦は半纏の袖を投げて、婀娜《あだ》に酔ッぱらいを、拳固で見せて、
「それッきり、五日の間行方知れずになっちまう。」
「旦那、こうなると頂きてえね、人間は依怙地《いこじ》なもんだ。」
「可いから、己が承知だから、」
「じゃ、め[#「め」に傍点]組に附合って、これから遊びにでも何でもおいでなさい。お腹が空いたって私、知らないから。さあ、そこを退《ど》いて頂戴よ、通れやしないわね。」
「ああ、もしもし、」
主税は身を躱《かわ》して通しながら、
「御立腹の処を重々恐縮でございますが、おついでに、手前にも一杯、同じく冷いのを、」
「知りませんよ。」
とつっと入る。
「旦も、ゆすり方は素人じゃねえ。なかなか馴れてら、」
もう飲みかけたようなもの言いで、腰障子から首を突込み、
「今度八丁堀の私《わっし》の内へ遊びに来ておくんなせえ。一番《ひとつ》私がね、嚊々左衛門《かかあざえもん》に酒を強請《ねだ》る呼吸というのをお目にかけま
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