かに言う。

       八

 皆まで聞かず、め[#「め」に傍点]組は力んで、
「誰が、誰があんな許《とこ》へ、私《わっし》ア今も、だからそう云ってたんで、頼まれたッて行きゃしねえ。」
「ところが、また何か気が変って、三枚並で駈附けるなぞと云うからよ。」
「そりゃ、何でさ、ええ、ちょいとその気になりゃなッたがね、商いになんか行くもんか。あの母親《おふくろ》ッて奴を冷かしに出かける肝《はら》でさ。」
「そういう料簡《りょうけん》だから、お前、南町御構いになるんだわ。」
 と盆の上に茶呑茶碗……不心服な二人《ににん》分……焼海苔《やきのり》にはりはり[#「はりはり」に傍点]は心意気ながら、極めて恭しからず押附《おッつけ》ものに粗雑《ぞんざい》に持って、お蔦が台所へ顕《あらわ》れて、
「お客様は、め[#「め」に傍点]組の事を、何か文句を言ったんですか。」
「文句はこっちにあるんだけれど、言分は先方《さき》にあったのよ。」
 と盆を受取って押出して、
「さあ、茶を一ツ飲みたまえ。時に、お茶菓子にも言分があるね、もうちっとどうか腹に溜りそうなものはないかい。」
「貴郎のように意地|汚《きたな
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