「何分頼むよ。」
「むむ、可いって事に。」
主税は笑って、
「その事じゃない、馬丁の居処さ。己《おれ》も捜すが、お前の方も。」
「……分った。」
と後退《あとじさ》って、向うざまに顱巻《はちまき》を占め直した。手をそのまま、花火のごとく上へ開いて、
「いよ、万歳!」
傍《かたわら》へ来た駅員に、突《つん》のめるように、お辞儀をして、
「真平御免ねえ、はははは。」
主税は窓から立直る時、向うの隅に、婀娜《あだ》な櫛巻の後姿を見た。ドンと硝子戸《がらすど》をおろしたトタンに、斜めに振返ったのはお蔦である。
はっと思うと、お蔦は知らぬ顔をして、またくるりと背《うしろ》を向いた。
汽車出でぬ。
貴婦人
一
その翌日、神戸行きの急行列車が、函根《はこね》の隧道《トンネル》を出切る時分、食堂の中に椅子を占めて、卓子《テイブル》は別であるが、一|人《にん》外国の客と、流暢《りゅうちょう》に独逸《ドイツ》語を交えて、自在に談話しつつある青年の旅客《りょかく》があった。
こなたの卓子に、我が同胞のしかく巧みに外国語を操るのを、嬉しそうに、且つ頼母《たのも
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