一番しゃん、と占める処だが、旦那が学者なんだから、万歳、と遣れ。いよう旦那万歳、と云うと御新造万歳、大先生万歳で、ついでにお源ちゃん万歳――までは可かったがね、へへへ、かかり合だ、その掏摸も祝ってやれ。可かろう、」
 と乗気になって、め[#「め」に傍点]組の惣助、停車場《ステイション》で手真似が交って、
「掏摸万歳――と遣ったが、(すりばんだい。)と聞えましょう。近火《きんか》のようだね。火事はどこだ、と木遣で騒いで、巾着切万歳! と祝い直す処へ、八百屋と豆腐屋の荷の番をしながら、人だかりの中へ立って見てござった差配様《おおやさん》が、お前《め》さん、苦笑いの顔をひょっこり。これこれ、火の用心だけは頼むよ、と云うと、手廻しの可い事は、車屋のかみさんが、あとへもう一度|払《はたき》を掛けて、縁側を拭《ふ》き直そう、と云う腹で、番手桶に水を汲んで控えていて、どうぞ御安心下さいましッさ。
 私《わっし》は、お仏壇と、それから、蔦ちゃんが庭の百合の花を惜《おし》がったから、莟《つぼみ》を交ぜて五六本ぶらさげて、お源坊と、車屋の女房《かみさん》とで、縁の雨戸を操るのを見ながら、梅坊主の由良之助、
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