になった、真砂町さんと云う、大先生が不承知だ。聞きねえ。師匠と親は無理なものと思え、とお祖師様が云ったとよ。無理でも通さにゃならねえ処を、一々|御尤《ごもっとも》なんだから、一言もなしに、御新造も身を退《ひ》いたんだ。あんなにお睦じかった、へへへ、」
「おい、可い加減にしないかい。」
「可いやね、お前《めえ》さん、遠慮をするにゃ当らねえ、酒屋の御用も、挽子連も皆知ってらな。」
「なお、悪いぜ。」
「まあ、忍《ま》けときねえな。それを、お前、大先生に叱られたって、柔順《すなお》に別れ話にした早瀬さんも感心だろう。
 だが、何だ、それで家を畳むんじゃねえ。若い掏摸《すり》が遣損《やッそく》なって、人中で面《つら》を打《ぶ》たれながら、お助け、と瞬《まばたき》するから、そこア男だ。諾来《よしき》た、と頼まれて、紙入を隠してやったのが暴露《ばれ》たんで、掏摸の同類だ、とか何とか云って、旦那方の交際《つきええ》が面倒臭くなったから、引払《ひッぱら》って駈落だとね。話は間違ったかも知れねえけれど、何だってお前さん頼まれて退《ひ》かねえ、と云やあ威勢が可いから、そう云って、さあ、おい、皆《みんな》、
前へ 次へ
全428ページ中213ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング