えで、城を明渡すんだから、煩《むず》かしいや。長火鉢の引出しから、紙にくるんだ、お前さん、仕つけ糸の、抜屑を丹念に引丸《ひんまる》めたのが出たのにゃ、お源坊が泣出した。こんなに御新造《ごしん》さんが気をつけてなすったお世帯だのにッて、へん、遣ってやあがら。
ええ、飲みましたとも。鉄砲巻は山に積むし、近所の肴屋《さかなや》から、鰹《かつお》はござってら、鮪《まぐろ》の活《いき》の可いやつを目利して、一土手提げて来て、私が切味《きれあじ》をお目にかけたね。素敵な切味、一分だめしだ。転がすと、一《ぴん》が出ようというやつを親指でなめずりながら、酒は鉢前《はちめえ》で、焚火で、煮燗《にがん》だ。
さあ、飲めってえ、と、三人で遣りかけましたが、景気づいたから手明きの挽子どもを在りったけ呼《よん》で来た。薄暗い台所《だいどこ》を覗く奴あ、音羽から来る八百屋だって。こっちへ上れ。豆腐イもお馴染だろう。彼奴《あいつ》背負引《しょび》け。やあ、酒屋の小僧か、き様喇叭節を唄え。面白え、となった処へ、近所の挨拶を済《すま》して、帰《けえ》って来た、お源坊がお前さん、一枚《いちめえ》着換えて、お化粧《つく
前へ
次へ
全428ページ中211ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング