「切符の売下口《うりさげぐち》を見物でさ。ははは、別嬪《べっぴん》さんの、お前《めえ》さん、手ばかりが、あすこで、真白《まっしろ》にこうちらつく工合は、何の事あねえ、さしがねで蝶々を使うか、活動写真の花火と云うもんだ、見物《みもの》だね。難有《ありがて》え。はははは。」
「馬鹿だな、何だと思う、お役人だよ、怪しからん。」
 と苦笑いをして躾《たしな》めながら、
「家《うち》はすっかり片附いたかい、大変だったろう。」
「戦《いくさ》だ、まるで戦だね。だが、何だ、帳場の親方も来りゃ、挽子《ひきこ》も手伝って、燈《あかり》の点《つ》く前《めえ》にゃ縁の下の洋燈《ランプ》の破《こわ》れまで掃出した。何をどうして可いんだか、お前《めえ》さん、みんな根こそぎ敲《たた》き売れ、と云うけれど、そうは行かねえやね。蔦ちゃんが、手を突込んだ糠味噌なんざ、打棄《うっちゃ》るのは惜《おし》いから、車屋の媽々《かかあ》に遣りさ。お仏壇は、蔦ちゃんが人手にゃ渡さねえ、と云うから、私《わっし》は引背負《ひっしょ》って、一度内へ帰《けえ》ったがね、何だって、お前さん、女人禁制で、蔦ちゃんに、采《さい》を掉《ふら》せね
前へ 次へ
全428ページ中210ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング