ぼう》が動いた。
「直《じ》き帰って来るんですからね、心配しないで下さいよ。」
「だって、直《じき》だって、一月や二月で帰って来やしないんでしょう。」
「そりゃ、家を畳んで参るんですもの。二三年は引込《ひっこ》みます積りです。」
「厭ねえ、二三年。……月に一度ぐらいは遊びに行った日曜さえ、私、待遠しかったんだもの。そんな、二年だの、三年だの、厭だわ、私。」
 お妙は格子戸を出るまでは、仔細《しさい》らしく人目を忍んだようだけれども、こうなるとあえて人聞きを憚《はばか》るごとき、低い声ではなかったのが、ここで急に密《ひっそ》りして、
「あの、貴下《あなた》、父様《とうさん》に叱られて、内証の……奥さん、」
「ええ!」
「その方と別れたから、それで悲《かなし》くなって地方《いなか》へ行ってしまうのじゃないの、ええ、じゃなくって?」
「…………」
「それならねえ、辛抱なさいよ。母様《かあさん》が、その方もお可哀相だから、可《い》い折に、父様にそう云って、一所にして上げるって云ってるんですよ。私がね、(お酌さん。)をして、沢山お酒を飲まして、そうして、その時に頼めば可いのよ、父様が肯《き》いて
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