友染の長襦袢《ながじゅばん》のかさなる袖を、ちゅうちゅうたこかいなと算《かぞ》えるばかりに、丁寧に引分けて、深いほど手首を入れたは、内心人目を忍んだつもりであるが、この所作で余計に目に着く。
 ただし遣方が仇気《あどけ》ないから、まだ覗いている件《くだん》の長屋窓の女房《かみさん》の目では、おやおや細螺《きしゃご》か、鞠《まり》か、もしそれ堅豆《かたまめ》だ、と思った、が、そうでない。
 引出したのは、細長い小さな紙で、字のかいたもの、はて、怪しからんが、心配には及ばぬ――新聞の切抜であった。
 さればこそ、学校の応接室でも、しきりに袂を気にしたので、これに、主税――対坂田の百有余円を掏った……掏摸に関した記事が、細《こまか》に一段ばかり有ることは言うまでもない。
 お妙は、今朝学校へ出掛けに、女中《おんな》が味噌汁《おみおつけ》を装《も》って来る間に、膳の傍《そば》へ転んだようになって、例に因って三の面の早読と云うのをすると、(独語学者の掏摸。)と云う、幾分か挑撥的の標語《みだし》で、主税のその事が出ていたので、持ちかえて、見直したり、引張《ひっぱ》ったり、畳んだり、太《いた》く気を
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