厭な、どうして、こんなに雲脂《ふけ》が生《で》きて?」
五十四
主税が大急ぎで、ト引挟《ひっぱさ》まるようになって、格子戸を潜《くぐ》った時、手をぶらりと下げて見送ったお妙が、無邪気な忍笑。
「まあ、粗※[#「勹<夕」、第3水準1−14−76]《そそっ》かしいこと。」
まことに硯を持って入って、そのかわり蝙蝠傘《こうもり》と、その柄に引掛けた中折帽《なかおれ》を忘れた。
後へ立淀んで、こなたを覗《なが》めた書生が、お妙のその笑顔を見ると、崩れるほどにニヤリとしたが、例の羽織の紐を輪|形《なり》に掉《ふ》って、格子を叩きながら、のそりと入った。
誰も居なくなると、お妙はその二重瞼《ふたかわめ》をふっくりとするまで、もう、(その速力をもってすれば。)主税が上ったらしい二階を見上げて、横|歩行《ある》きに、井の柱へ手をかけて、伸上るようにしていた。やがて、柱に背《せな》をつけて、くるりと向をかえて凭《もた》れると、学校から帰ったなりの袂《たもと》を取って、振《ふり》をはらりと手許へ返して、睫毛《まつげ》の濃くなるまで熟《じっ》と見て、袷《あわせ》と唐縮緬《めりんす》
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