ど、」
 と云う口許《くちもと》こそふくらなりけれ。主税の背《せな》は、搾木《しめぎ》にかけて細ったのである。
 ト見て、お妙が言おうとする時、からりと開《あ》いた格子の音、玄関の書生がぬっと出た。心づけても言うことを肯《き》かぬ、羽織の紐を結ばずに長くさげて、大跨《おおまた》に歩行《ある》いて来て、
「早瀬さん、先生が、」
 二階の廊下は目の上の、先生はもう御存じ。
「は、唯今、」
 と姿は見えぬ、二階へ返事をするようにして、硯を手に据え、急いで立つと、上衣を開いて、背後《うしろ》へ廻って、足駄|穿《は》いたが対丈《ついたけ》に、肩を抱くように着せかける。
「やあ、これは、これはどうも。」
 と骨も砕くる背に被《かつ》いで、戦《わなな》くばかり身を揉むと、
「意地が悪いわ、突張るんだもの。あら、憎らしいわねえ。」
 と身動《みじろ》きに眉を顰《ひそ》めて――長屋の窓からお饒舌《しゃべ》りの媽々《かかあ》の顔が出ているのも、路地口の野良猫が、のっそり居るのも、書生が無念そうにその羽織の紐をくるくると廻すのも――一向気にもかけず、平気で着せて、襟を圧《おさ》えて、爪立《つまだ》って、

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