とは出来んさ、いずれ密々話《ひそひそばなし》さ。」
誰も否とは云わんのに、独りで嵩《かさ》にかかって、
「紙入を手から手へ譲渡《ゆずりわたし》をするなんて、そんな、不都合な、後暗い。」
「だがね、」
とちょいちょい、新聞を見るようにしては、お妙の顔を伺い伺い、嬢があらぬ方を向いて、今は流眄《しりめづかい》もしなくなったので、果は遠慮なく視《なが》めていたのが、なえた様な声を出して、
「坂田が疑うように、攫徒の同類だという、そんな事は無いよ。君、」
「どうとも云えん。酒井氏の内に居たというだけで、誰の子だか素性も知れないんだというじゃないか。」
「父上《とうさん》に……聞いて……頂戴。」
とお妙は口惜《くや》しそうに、あわれや、うるみ声して云った。
二人|密《そっ》と目を合せて、苦々しげに教頭が、
「あえてそういう探索をする必要は無いですがね、よしんば何事も措いて問わんとして、少くとも攫徒に同情したに違いない、そうだろう。」
「そりゃあの男の主義かも知れんよ。」
「主義、危険極まる主義だ。で、要するにです、酒井さん。ああいう者と交際をなさるというと、先ず貴嬢《あなた》の名誉、続い
前へ
次へ
全428ページ中174ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング