て、卓子を軽《かろ》く打って、
「どうです、貴娘が聞いても変だろうが。
その筋じゃ、直《じ》きその関係者にも当りがついて、早瀬も確か一二度警察へ呼ばれた筈《はず》だ。しかしその申立てが、攫徒の言《ことば》に符合するし、早瀬もちっとは人に知られた、しかるべき身分だし、何は措《お》いても、名の響いた貴娘の父様の門下だ、というので、何の仔細《しさい》も無く済むにゃ済んだ。
真砂町の御宅へも、この事に附いて、刑事が出向いたそうだが、そりゃ憚《はばか》って新聞にも書かず、御両親も貴娘には聞かせんだろう。
で、とんだ災難で、早瀬は参謀本部の訳官も辞した、と新聞には体裁よく出してあるが、考えて御覧なさい。
同じ電車に乗っていて、坂田氏が掏られた事をその騒ぎで知らん筈がない。知っていてだね、紙入が自分の袂に入っている事を……まあ、仮に攫徒に聞かれるまで気がつかなんだにしてからがだ、いよいよ分った時、面識の有る坂田氏へ返そうとはしないで、ですね、」
河野にも言《ことば》を分けて、
「直接《じか》に攫徒に渡してやるもいかがなもんだよ。何よりもだね、そんな盗賊《どろぼう》とひそひそ話をして……公然
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