のりかか》って、
「何を話していたのだい。」
 教頭をちょいと見れば、閑耕は額で睨《ね》めつけ、苦き顔して、その行過《やりすごし》を躾《たしな》めながら、
「実は、今、酒井さんに忠告をしている処だ。」
 お妙は色をまた染めた。
「そうだとも! ええ、酒井さん……」
 黙っているから、
「酒井さん!」
「ははい、」と声がふるえて聞える。
「貴娘《あなた》知らんのならお聞きなさい。頃日《このごろ》の事ですが、今も云った、坂田礼之進氏が、両国行の電車で、百円ばかり攫徒《すり》に掏《や》られたです。取られたと思うと、気が着いて、直《ただち》に其奴《そいつ》を引掴《ひッつかま》えて、車掌とで引摺下ろしたまでは、恐入って冷却していたその攫徒がだね、たちまち烈火のごとくに猛《たけ》り出して、坂田氏をなぐった騒ぎだ。」
「撲《なぐ》られたってなあ、大人、気の毒だったよ。」
「災難とも。で、何です。巡査が来たけれども、何の証拠も挙《あが》らんもんで、その場はそれッきりで、坂田氏は何の事はない、打《ぶ》たれ損の形だったんだね。お聞きなさい――貴娘。
 証拠は無かったが、怪《あやし》むべき風体の奴だから、そ
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