妙の背後《うしろ》から、横顔をじろりと見る。
河野の調子の発奮《はず》んだほど、教頭は冷やかな位に落着いた態度で、
「どこの帰りか。」
「大学(と力を入れて、)の図書館に検《しら》べものをして、それから精養軒で午飯《ひるめし》を食うて来た。これからまたH博士の許《とこ》へ行かねばならん。」
と忙《せわ》しそうに肩を掉《ふ》って、
「君(とわざと低声《こごえ》で呼んで、)この方は……」
「生徒――」と見下げたように云う。
「はあ、」
「ミス酒井と云う、」と横を向いて忍び笑を遣る。
「うむ、真砂町の酒井氏の、」
と首を伸ばして、分ったような、分らぬような、見知越《みしりごし》のような、で、ないような、その辺あやふやなお妙の顔の見方をしたが、
「君、紹介してくれたまえ。」
「学校で、紹介は可訝《おかし》かろう。」
「だってもう教場じゃないじゃないか。」
「それでは、」と真《まこと》に余儀なさそうに、さて、厳格に、
「酒井さん、過般《いつか》も参観に見えられた、これは文学士河野英吉君。」
同じ文字を露《あらわ》した大形の名刺の芬《ぷん》と薫るのを、疾《と》く用意をしていたらしい、ひょい
前へ
次へ
全428ページ中168ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング