父様は、自分の門生だから、十に八九は秘《かく》すですもの。何で真相が解りますか。」
 コツコツ廊下から剥啄《ノック》をした者がある。と、教頭は、ぎろりと目金を光らしたが、反身《そりみ》に伸びて、
「カム、イン、」と猶予《ためら》わずに答えた。
 この剥啄と、カム、インは、余りに呼吸が合過ぎて、あたかもかねて言合せてあったもののようである。
 すなわち扉《ドア》を細目に、先ず七分立《しちぶだち》の写真のごとく、顔から半身を突入れて中を覗いたのは河野英吉。白地に星模様の竪《たて》ネクタイ、金剛石《ダイアモンド》の針留《ピンどめ》の光っただけでも、天窓《あたま》から爪先《つまさき》まで、その日の扮装《いでたち》想うべしで、髪から油が溶《とろ》けそう。
 早や得《え》も言われぬ悦喜の面で、
「やあ、」と声を懸けると、入違いに、後をドーン。
 扉の響きは、ぶるぶると、お妙の細い靴の尖に伝わって、揺らめく胸に、地図の大西洋の波が煽《あお》る。

       四十九

「失敬、失敬。」
 とちと持上げて、浮かせ気味に物|馴《な》れた風で、河野は教頭と握手に及んで、
「やあ、失敬、」と云いながら、お
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